躊躇していた。
出るかどうしようか、

「出た方がいいよ」

「うん…」

瑠璃に言われて電話の通話ボタンを押した。

「はい、高瀬です」

「もしもし?出ないつもりだった?」

ドキッ
どうして、この人は考えている事が分かるんだろう。

「っ、…いえ、別にそんな事はないで…す」

自分でも歯切れが悪いと思った。
室長に不審がられても仕方ないか…

「…聞いてるのか?」

「っ、はい。すみません。何かありましたか?」

「もう、回りくどい言い方はしない。昨日、蓮と何があった?」

室長は核心をついてきた。

「何も、ない…です」

「高瀬、黙っていたら俺には、分からないとでも思ってるのか?」

「…いえ、あの、何もありません」

言葉に詰まる私を見た瑠璃が、携帯を私の手から取り上げて、スピーカーのボタンを押した。
驚く私に人差し指を口にあてて、話し続けてと。

「昨日、ホテルに泊まったのは君だね」

…バレてる。
室長に知られてた。

「…あ、あの専務が何か話されたんですか?」

「蓮か、あいつは君とは言ってない。君だと確信出来てない様子だったけど?」

え?

「そ、それはどう言う意味ですか?」

「蓮は、酒が入っていたから、誰がいたのかはっきりしない、と。何をしたまでは覚えてるらしいが、相手が分からないと言ってるよ」

そんな…
頬に涙が伝うのが分かった。

「俺は覚えていないなら、これを利用したいと思う。高瀬、分かるね?君はいなかった、何もしていない。蓮は夏帆さんとそういう関係になった、と言う事にするつもりだ」

何を言ってるんだろう。
頭を殴られたような衝撃だった。
なかっ事にされるのは仕方ない、でもすり替えられるのは…

「分かりました。もう何も言いませんから、出先なんで、失礼します」

滲んだ目の前で、瑠璃が何かを言おうとするのが見えた私は、電話のスピーカーを消して携帯を持ってベランダに出た。

そして、それだけ言って電話を切った。その一言を言うが精一杯だった。