あの日、私には何が出来たのだろうか。

あの日喧嘩をしていなかったら、家を飛び出さなかったら、そんなことが頭を駆け巡る。

そんなことを考えたって、お母さんとお父さんが帰って来るわけじゃない。

分かっている。

そんなことは、分かっているんだ。

私だって、もう高校二年生。

起きてしまったことは仕方ないし、変えられない。

それくらいは理解出来る。

でも、その後悔はずっと尾ヒレのように付き纏う。

あの日、泣き腫らした目を擦りながら家に帰って伝えるはずだった、「ごめんなさい」の言葉が、ずっと心の中で引っ掛かったままでいる。

私、美空茜はあの、十二年前のあの日から、ずっと動けないままで居る。


十二年前のあの日、五歳だった私は珍しく両親と喧嘩をして、家を飛び出した。

一人で公園に泣きながら居たけれど、寂しくなってまた泣きながら、二人に「ごめんなさい」を伝える為に泣き腫らして真っ赤になった目を擦りながら、家路を急いだ。

けれど、待っていたのは温かい家では無かった。

簡潔に言うと、両親は何者かによって殺害されていた。

十二年経った今でも忘れられない。

真っ赤に染まり、こと切れている両親の姿を。

正直に言うと、この両親が殺害されている光景が強烈過ぎて、この先のことをあまり覚えていない。

ただ覚えているのは、同じ年くらいの可愛いの子がその母親と一緒に謝りに来たことくらい。

どうやらこの子の父親が両親を殺害したらしい。

親戚の人に聞いた話だと、物取りの時の犯行だったらしい。

そして、覚えていることはもう一つだけある。

「ぼく、ぜったいにつよくなって、あかねぇをまもるから」

一人で泣いていたら、隣に住んでいる一つ下の幼馴染の夏目星羅(セラ)が私のことを抱き締め、泣きながら言ってくれた。

それだけで、とても救われた。

私はその日から、少しずつ笑えるようになった。

そして、高校二年生になる今日、私はまだ知らない。

私の人生を大きく変える出会いがあるなんて、この時の私は何も知らなかった。