私の身体を抱き寄せて、
囁くように、残りの力を絞り出すかのように君は言った。
いつかの日と同じ、愛の色に満ちた瞳で。
私を抱きしめている腕は緩く、振りほどけば逃げることが叶う。
逃げてもいいのだ、と彼の切ない優しさを、身を以て感じる。
もう彼には私を強く抱きしめる力すら残っていないのだ。
ほんの一年前までは、逃がさないと言わんばかりに抱きしめられ、口を塞がれ、彼のものである証を刻まれた。
だがもうその痕は無い。
綺麗に消えてしまった。
塗り替えるように、彼はそれをすることはなく、真っさらになったその場所に口付けを落とすだけ。
物欲しそうに強請(ねだ)っても、彼は曖昧に笑うだけ。
「…希咲」
「うん」
「あなたは、“そばにいてほしい”って私に言ったよね?」
なのにどうして、いなくなっちゃうかのようなことを言うの?
これで終わりだと言わんばかりの表情で、“好きだよ”だなんて言ったの?



