「なぁ、お前らって付き合ってんの?」

緊張混じりのその声に振り返ると
表情すらぎこちない男子が立っていた。

私が彼を認識した瞬間だった。

一瞬、何を言われたのか理解出来なかったが、
少しずつ何かに蝕まれるような
黒いモヤを心に感じた。

幼なじみの知高(トモタカ)と
廊下で話してる最中の出来事だった。

『あ?』

私は、怒りを込めたその一文字を
名前も知らないその男子に投げつけた。

「んなわけねーだろ、バカが」

呆れたように知高が返す。

「え?そうなの?」

わざとらしいその一言に
この男子の不器用さが表れている。


私と知高は確かに親しい関係だ。

昔から女子特有の固定グループを組めなかった私が
唯一長くつるむのが知高だった。

だからと言ってそういう恋愛感情は無い。

男女間の友情は私たちが証明していると
胸を張ることだってできる。

だからこそ
そんな 茶化し が腹立たしかった。

苛立ちという黒いモヤは
初対面で彼を嫌いになるには
充分な大きさだった。