「例えば、どんなこと?」

あなたのこの質問は、あなたが両親に何をすべきか、という意味ではなく、彼女は母親に何をしてあげたかったか、という意味に聞こえました。彼女もそれを汲み取り、迷いながら答えます。

「そうですねぇ……もっと実家に顔を出せば良かったと思うし、父との旅行なんかをプレゼントしてあげたかったですね。……ああ、あと、最期まで“素敵な人を見つけてね”ってうわ言で言ってたので、花嫁姿を見せてあげたかったなぁと思います。せめて父には見せてあげられるといいんですけど」

「そういうものですか?大事な娘に嫁にいかれたら、父親って悲しむんじゃないですか」

「ふふ、いいえ、うちは結婚してほしいみたいですよ。すっかり弱気になっちゃって“俺もいつ死ぬか分からない。菜摘を守れる男が必要だ”なんて、おかしなことを言い出しました。顔見るたび、彼氏はできたかってうるさいんです」

彼女は見たことのない父親の物真似をしながら、面白おかしくそう言いました。あなたは謀らずも、彼女は結婚しておらず、恋人もいないという情報をやっと仕入れたのです。

「守る男が必要、なんて、父の言い方が古くて笑っちゃいました。別に守ってもらわなくても、ひとりでたくましく生きていくしかないじゃないですか」

「……そうですね」

あなたは思ったでしょう。この状況の彼女がそれを言えるのか、と。