あなたはそんなことは考えたことがないでしょう。あなたのご両親は生きていますが、そうでなくても、です。隣合った県にある実家にも、用事がなければ帰ろうとも思わない人ですから。

「一年間、色々と忙しくて……やっと、ここへ来れて良かったです」

そう言った彼女はうっすらと笑顔を浮かべていました。
あなたは、この巡礼は彼女にとって悲しいものだったのか、それとも充実したものだったのか、読み取れずにいるでしょう。あなたにはそういったことを読み取る技量はないかもしれません。

しかし、彼女はあなたが聞いてくれただけで、満足そうにしています。

「すみません碓氷さん、しんみりしたお話しちゃって」

「……いえ、そうなんじゃないかと思って、確認したくて俺も聞きましたから。こちらこそすみません」

彼女が気付かない間に、スマートインターチェンジの入り口のゲートをくぐっていました。合流するためにスピードを出します。

「碓氷さんのご両親は近くに住んでらっしゃるんですか?」

彼女の問いに、あなたは合流を終えてから答えます。

「ええ。車でも電車でも、立川からは四十分もかからない距離にいます。……滅多に顔は出しませんが。別に仲が悪いわけでもないんですけどね」

「お仕事忙しいと、仕方ないですよね。……でも、親孝行できるときにしておいた方がいいですよ」

女性から親孝行をした方がいいと言われたことは何度かあるでしょう。その言葉をあなたがこれほど真剣に聞き入っているのは、初めてです。