ふたりで黙々と食べ続け、あなたは五分とかからず食べ終えたのですが、彼女はまだ半分でした。
あなたは包み紙をクシャリと右手の中で潰します。その様子に気づいた彼女は「ん」と声を漏らし、半分残っているハンバーガーを一旦包み紙にくるむと、落とさないように膝に置きました。

「あの、捨てますよ、それ」

彼女は手を差し出しました。あなたはそこへ丸まった包み紙を渡します。

「すみません」

「いえいえ。あ、手も拭きます?」

彼女はまたハンドバッグのポケットから、ウェットシートのパッケージをちょっと見せて言いました。
あなたは包み紙を潰したときに右手に油がついたため、ハンドルを握れずにいたのです。彼女の提案に「じゃあもらいます」とありがたく乗りました。

あなたはウェットシートを受けとるとき、右手を拭くには左手もハンドルから離さねばならないので、少し躊躇しました。すると彼女は思い付いたように、

「私拭きましょうか」

と言いました。
しかし、あなたが「は?」と雑に聞き返したので、数秒後、彼女は真っ赤になって慌て始めます。

「あ、いえ、手が塞がってるみたいだったので、それで、つい…………すみません」

あなたは決して嫌悪感から「は?」と言ったわけではなかったのです。しかし、ひっそりとウェットシートを一枚差し出しながら真っ赤な顔で俯く彼女を見て、自分の言葉がどう受け取られたのかを自覚したのでしょう。
本当はハンドルから両手を離して手を拭くくらいあなたにとっては難しいことではないのですが、わざとそれをせず、彼女に声をかけました。

「じゃあ、拭いてもらえますか」

あなたは右手を、左腕の下をくぐして彼女に差し出しました。