「おー、冬。調子どうだ?」
「変わらずっすよ」
「そうかそうか。部活ちゃんと来いよ」
「はーい」
 学校は、家より気楽だ。素でいられる時間が多いせいだろう。
「冬、おはよっ」
「はよー」
 自分で言うのも何であるが、私は人気者の方だと思う。靴箱から教室までの道のりは、約10mある。その距離で毎朝他学年5人以上に挨拶をされる程。
「冬さん、おはようございます!」
「あ、矢川じゃん。おはよ」
 後輩で一番仲の良い矢川尋(やがわじん)。問題児で、同級生はもちろんのこと、教師全員を呼び捨て。挙句の果てには本校一のプレイボーイである。そんな矢川ではあるが、入学早々、さん付けで懐かれている。
「今度ダチと入学パーティーするんすけど、ゲストとして冬さんも来ません?」
「はは、入学パーティーとか今冬だけど」
 吹き出した私を前に、矢川もにっこりと微笑んだ。
「ほんとは春にする予定だったんすけど、忘れてて。で、冬さん来ます?」
 一瞬考える素振りを見せ、折角だけど、と言葉を繋げた。
「お断りしとくよ。入学パーティーなんだから2年がいると変じゃん。ま、楽しんでね。誘ってくれてありがと」