第一章
合格発表

【涙奈side】
「えーと、86番…。あ、あった!」
第一希望である相山高校に受かった。とりあえず一安心。
私、四月から女子高校生になる天宮涙奈。
「お母さん!番号あった!受かったで!」
会場に同伴してくれたお母さんに受かったことを報告し、携帯を出す。
自分の受験番号の載っているところを撮影し、お父さんにも報告。
「なあ、ちょっと外行くわ」
と、言い少し肌寒い中一人で近くの公園のブランコに座る。
恋、とかしてみようかな。
せっかくの高校デビューやし、恋の一つや二つ、やっとかんと損よな。
でも、かっこいいとか思っても好きって思ったことないし。
そう考えていたら、三人の男の子が目の前を歩いている。
楽しそうにしているから、多分四月から同じ高校に入る子だ。合格おめでとう。合格したかわからないけど。
そろそろお母さんのもとに戻ろう。

「涙奈、今夜お父さん早く帰ってくるみたいやし、みんなでご飯食べに行こうか。」
「そうなん?せやなぁ、お寿司食べたい!」
「お寿司〜?お父さんにも言うとくわ。」
「うんー」
ちょっとだけ笑って応える。これでも結構お寿司楽しみだよ。早速、車に乗る。私は助手席。
相山高校の最寄り駅が見えてきた。春からこの駅使うんだって思ってみていた。
「あ、お母さん!止めて!」
さっき公園でみた男の子たちがいる。よくわからないけど追いかけてみようって思った。
「お母さん、練習ってことで電車で帰るわ!着いたら連絡する!」
って車を飛び降りた。なんかね、衝動的というか本能的というか。運命感じたかも。
あの男の子たちの後ろをちょっとだけゆっくりと歩く。
怪しまれないかな?
一番右の子、少し顔が見える。かっこいいかも。
よく見えないから詳しいことはいえないけど、笑った顔がなんともいえないくらい爽やか。そんな雰囲気。
券売機まできた。
私はプリペイドカードがあるから、切符を買う必要ないよ。楽ちんでいいね。私は先に改札機通っておこう。
でも、右と左、ちょっとわかんないかも。
迷っていたら、男の子たち来ちゃった。
どっち行くんだろう。ついて行こう。
あ、笑顔爽やかくんのポケットから切符落ちてきた。
これは話しかけるチャンス到来。すぐに拾って、かけ足で近づく。
「あの、切符落としましたよ」
「あ、ありがとうございます」
少しびっくりしてた。でも、これで完璧。
ちょっと探ってみよう。
「もしかして、四月から相山高校デビューですか?実は相山高校でちらっと見たんですよ!」
ちょっと嘘ついちゃった。仕方ないね、話題が欲しかった。
「え、そうなんですよ。同じ高校なんですね!あの、せっかくやし、連絡先交換ってありですか?」
え、展開はやすぎないか、これ。早速お友達ゲット。いいスタートきれるかも。
追加された友達の名前、蒼瀬渚の文字。
かっこいい顔と裏腹に可愛い名前。
蒼瀬くんのお友達と思う二人とも交換完了。
藤井くんと高崎くん。この二人もわりとかっこいい。
顔面偏差値65は超えてる。私の中でだけど。
あ、電車が来ちゃう。ちょっとピンチかも。


三人の最寄り駅と、私の最寄り駅がかなり近くて助かった。
これからの通学も困らなさそう。
一人で通学って心細かったからね、ほんとによかった。
携帯を見て、時刻の確認。もう16時だ。
少しだけ走ろう。準備があるし、今日はいつもより張り切りたい。
ご飯行くだけなんだけどね。
よし、走るぞ。
「ただいまー」
駅から徒歩12分くらい、走ったから10分も経ってないはず。うん、7分だ。
急いで階段を上がって、自分の部屋に入る。
ちょっとだけ疲れたからベッドにダイブ。
この瞬間、最高に気持ちよくて好き。
ついつい寝ちゃいそうになるから、あんまり横になないけど。
休憩したし、メイク直しから。
軽くほっぺたにポンポンって火照った感じ、リップも赤すぎない、我ながら好き。
髪はくせっ毛だから内巻きっぽくなっている。
明るすぎない茶色といったところ。
明るすぎたらこれからの高校生活でいきなり指導なんて嫌だからね。
よし、私の自慢のナチュラルメイク。
派手なものが好みでないから、ナチュラルメイクが一番好きだったりする。
普通に可愛いでしょ。
服はどうしようかな。シンプルにジーパンとシャツに、赤のチェックの上着。
男の子っぽくてかっこいいかな。適当なんだけどね。
黒のカバンに、お財布、手鏡、ハンカチ、ティッシュ、リップ、イヤホン、携帯を入れる。女子力の塊。
あと、香水。柑橘系の。
バニラも好きだけど甘ったるいしずっとその匂いしてたら気分悪くなっちゃうから、爽やかな柑橘系がオススメ。

あ、お父さんが帰ってきた。
「お父さんおかえりー」
「ただいま、お母さんと怜は?」
「お母さんは多分お化粧してる。お兄ちゃんはゲームしてると思う。知らんけど。」
「わかった、怜に準備しといてって言うといて」
「了解でーす」
階段を登って右にまがる。お兄ちゃんの部屋久しぶりかも。
コンコンってノックして、お兄ちゃーん、ご飯行くよーって声をかける。
部屋からは適当な返事が返ってくる。
お兄ちゃん、もう大学生なんだ。ちょっと寂しいかな。
あれ、私ってブラコンだっけ。そんなことない。多分。
そんなことは置いといて、時間あるし漫画でも読もう。恋愛モノ。
たまにこんな恋したいって憧れることもあるけど、実際にあったらいまいちピンとこないと思う。想定出来ちゃうから。ドキドキキュンキュンしたことないし、そこまで興味はない。
友達の恋愛事情は面白いからよく聞いてるけどね。
ちょっとゲスいかもだけど、いじれるじゃん。
私も、噂とか流されたことあるけど、全く気にしてないし、スルーしてるからすぐに消える。
友達たちからしたら面白くないみたい。
そりゃそうよね。反応ないし。
漫画とかドラマで、よくある男女で自転車二人乗りってやつ。
法律違反だし、もし警察に見つかったら面倒くさいし。
私って結構マジメだよ。これだから夢がないのかな。
春から全力で自分なりの恋するから大丈夫。多分。
でも、正直不安でしかない。
失恋とかでメンタルブレイクされて、心に傷を負っている子を何人も見てきたから。
傷つきたくないって言っちゃえばそう。弱虫かな。ズルいかも。
今までお気楽に生きてきたから、病んだこともないし、自分ことをよく知ってないかもしれない。恋愛面のね。
恋愛って自分のことを知る大きなチャンス。
上手くいかなかったら自分や相手のことを酷く傷つけてしまう。
恐らく、自分も相手も、本気になればなるほど別れたときは、一生立ち直れないくらいにプライドもメンタルもズタズタになる。
深く語ってるけど、全部友達談で、あくまで私の解釈だよ。本当にそうなるとって考えたらこわくてご飯進まなさそう。本当に恋愛したことないから偏見しかない。
いい経験になると思うけどね。
…こんなこと考えてたら純粋に恋できるか心配だ。
色々と不安だな。
下手に恋愛とかやって人間関係拗れるのも嫌だし、もし本気になって勉強やらなくて進学できなかったらどうしようって。
まあそういうことはその時考えたらいいか。
別のことを考えよう。
漫画も読む気にならない。
ちら、っと壁に掛けている時計を見る。
もう17:00時だ。
買い物もするって聞いてたし、多分そろそろ呼ばれると思う。
私はすることないし暇だから一足先にリビングに向かうね。

ーガチャ
トントン、と一定のリズムで階段を降りる。
あれれ、もうお兄ちゃん居るじゃん。
負けちゃった。別に勝負とかしてないけど。
そこまで子どもじゃない。
妹の私がいうのもあれだけど、お兄ちゃん結構カッコいいよ。
ぱっちりとした切れ長の目、シュッとした綺麗な鼻。
横顔とか好きなんだけど、お兄ちゃんのどストライク。
合格。花丸です。
「なあ、お兄ちゃん」
「なに?涙奈」
「私、もう高校生やで!ええ恋できるかなー」
「どう考えてもムリ。ガサツで男勝りなお前に一生彼氏出来る気せえへんわ」
「え、自分に彼女おるからって辛辣すぎー」
適当に他愛もない話を、というか雑な恋バナ。
そう、お兄ちゃんほんとにカンペキ。かなりハイスペック。
四月から府内で一番の難関大学に通う。なんであっさり受かってんだろ。すごい。
すごい以外言い表すこと出来ないから、とにかくすごい。
語彙力全然ない。頭悪そう。
でも、ガサツで男勝りは否定します。
そうだったかもだけど、女の子らしくなる。今よりもっと。

トントン、誰か降りてくる。
お母さんだ。
そろそろ出ると思う。カバンを掛けて靴を履く。
当たり。お父さんが車を出す準備をしている。
お兄ちゃん、お母さんも出てきたから、お出かけモード完了。
星が見えてきた薄暗い外、車に乗り出発進行。
それじゃ、行ってきます。