激しい頭痛と共に目が覚めると、
壁に見覚えのない不自然に切り取られたような
穴が空いていた。それも30センチ四方の。

ああ?なんだよこれ。つーか頭いてー、、
二日酔いか、昨日飲みすぎたな。
まだ夢でも見てんのか?
枕元のスマホで時間を確認する。
ああ、今日朝からバイトだった。

先週引っ越して来たばかりの新築学生アパートに穴が空いているわけがない。昨日まではなかったはず。

いや待て、それはそうと昨日俺は何をしてたんだ?
大学の授業の後、サークルの奴ら6人と飲みに行って。それから、、、?
思い出そうとしても、
その後の記憶がプッツリと消えていて
家に帰った覚えが全くない。
思い出せる最後の記憶はベロンベロンのタカシが
「俺が送ってやるよ〜」
って無理やり俺の肩を組んで歩き出そうとして
「やめとけって、お前記憶無くなるレベルで飲んでんじゃん」

ちょっと待て、俺この時酔ってたか?
そもそも、飲んでた他の奴らは?

確か昨日は俺とタカシ、小川、みやもん、木下、、
あれ、あと1人誰だ?あと1人絶対にいたはず。

ピピピピピピ

急いでアラームを止めた、
アラームの音が二日酔いの頭にガンガン響く。
バイト行かないと。
布団を剥いでベットから降、
「いてっ!」思わず右足の親指をさする。
敷布団だった。
ベットの段差分勢いよく足を下ろそうとしたため、床で親指の爪を強く打ってしまった。
頭の次は足かよ、ボヤきながらも顔を洗おうと洗面台の方へ向かう。

洗面台で軽く顔を洗って、いつかけたかもわからない生臭いタオルで顔を拭いた。
いつもの流れで、歯ブラシを取って歯磨き粉を、
着ける。顔を洗っても匂いから二日酔いなのがバレバレだ。店長に怒られるな。

そう思いながら歯ブラシを口に突っ込む。
「辛っ!ゲホッ」
思わず歯磨き粉を吐き出して口をすすぐ。
こんな辛かったか?この歯磨き粉。久しぶりに潰れたから味覚までおかしくなったのかよ。

バイトあるし気を取り直して、歯を磨く。
今日は一年生の可愛い女の子と一緒なのに、
俺は何でこんななるまで飲んだんだよ。

鏡に映る二日酔い丸出しの自分を睨んだとき、
視界に背後のバスルームが映った。
その異様な光景に、慌てて後ろを振り返る。
半開きのドアの先にあるバスルーム。
そのバスルームの床が真っ赤に染まっていた。

恐る恐る半開きのドアを開いて、
床の血をたどると血だらけの男がバスタブの中に横たわっている。
パニックになった俺は洗面台から離れ、
自分の部屋をもう一度見直した。

寝ぼけていて全く気が付かなかったが、
ここは、先週まで俺が住んでたアパートだった。

先週引っ越して家具も荷物も全て今の家に置いてるはずなのに、机、教科書、ハンガーにかけてる服。処分したはずの雑誌。ゴミ箱。その全てがそのままここに再現されていた。

「んんぐぅ」
バスルームから男の呻き声聞こえて、
ギュルルルルルル
人の肌とバスタブが擦れる音、
そしてダンッダンッと立ち上がる足音が聞こえた。
あまりの異常な事態に足がフリーズして動けない。
近くにあったカッターナイフを手中に隠し持つ。
ペチャ、ペチャという血で湿った足音と共に
奴がドアから出てきた。
すると、俺の方に向かって歩き出した。
ペチャ、ペチャ、ペチャ
恐怖のあまり見開いた目を瞬きすることも出来ない。ペチャ、ペチャ
少しずつ横に後ずさりする。
男はそれでも俺の方ではなく真っ直ぐ進んでいて、
ペチャ、ペチャ

あの穴の前まで来ると
「んんぐぅ、ぐぅう」
男が唸り始めた。
「ぐぅぅゔゔゔ」
うなり声が壮絶なものに変わる。
あまりの音圧に目も開けてられない。
ギリリと奥歯を噛み締めて耐える。



消えていた二日酔いの頭痛が蘇ってきた。
そして目を開けると。血だらけの男も壁の穴も
消えていた。
幻覚でも見ていたのか、それとも夢だったのか。
さっきまであった敷布団はベットに変わり、穴は消えていた。
ピピピピピピ
アラームが再び鳴った。
バイトに遅れる!
二日酔いの頭痛を抱えながらTシャツとジーンズに着替えてリュックを背負いスニーカーを履いて
アパートを出て行く。
つま先でトントンと、踵をスニーカーに収めながら
もう一度部屋を振り返ると、血だらけの足跡が残っていた。

サイレンの音が聞こえる。