普通主婦瑠璃子は、かんがえている。日本人はなんだかんだ言っても離婚率はまだまだ低いほうだとおもう。圧倒的に旦那側が浮気やそれらしいことをしてもだ。
そうですよ。瑠璃子は自分は普通だとおもっていました。多数派です。少数派にははいっていないとね。それがまあ、自慢といえばそれだったんですけどね。
すごい金持でもステイタスがあるわけでもないけれど、まあそれなりなら良しとするかと、へいへいぼんぼんにとらえていたふしがある。

夫の陸男は特に秀でたところはない。オトコ前でもなく実に地味だ。出世はしなかったが会社でちゃんと働いて家族を養ってくれた。瑠璃子もいろいろ働いて家計をたすけた。まあ、助けあってつつましく暮らしていたのだ。しあわせでした。
 瑠璃子の母はよくいったものだ。「上をみたらきりがない」実際そうおもっていた。
だから、瑠璃子は結婚の条件がすごく低かったとおもう。
ただ、ちゃんと働いて、大人であること
陸男はそれを満たしていたから結婚を承諾した。でも現在露見した浮気疑惑さわぎでは全くおとなではなかった。幼児なみである。

実は瑠璃子は若いころ結構もてていた。顔は中の上位だったが、愛嬌があるし心根が優しいところもあって実によく男性から交際をもうしこまれていた。

だが勉強とか作家になるんだーとかほざいててあまり男性には興味をもてなかった。

そんなとき、ある先輩が熱心に自分の山の会にさそった。「朝、弱いんですよー」
とやんわり断ると、「俺、朝強いから何時でも電話かけておこしてやるよ」と気軽にいい、本当に5時にかけてきて、瑠璃子をたたき起こした。
そう、あの時代、電話が普通だったんですー。

そしてハイキングへいった。
ま、そこに陸男が地味なジャージを着ていた。まったく目立たなかった。あまり言葉もかわさなかったとおもう。
先輩が「ここは山歩きが終わったらレポートを書くことになっている。今回は瑠璃子さん、次の人は陸男さんだから書いたら渡してください」

8月の末に電話して会社の帰り、コーヒー飲みながらレポートを渡した。
PCの時代じゃない、そういう時代だったのです。
その時「瑠璃子さん。良かったら、これからトキドキ会いませんか」といった。
山ではヨレヨレジャージの陸男は互いに会社帰りに見たら白いシャツ姿で初初しくうつったのを瑠璃子はよくおぼえている。

陸男のまれにみるくらい恥ずかしがりやで真面目、誠実そうなのが新鮮だったのだ。
男女の愛なんて「唯一」という綺麗ごとがおりなしている。
瑠璃子もそれに既にはまっていた。

でも実はちがったのだ。これはあとで知ったのだが、陸男は実は女性に非常にマメだった。そのあと数日後には会社の同僚女性、年上、失恋したばかりのと尾瀬へ二人だけで3泊もし、一泊は同室に泊まっていた。これが9月半ばでした。

陸男いわく「しょうがないじゃないか、いつも女共が寄ってくるんだから」

まあ、要するに、心の空き部屋みたいな存在なのだろう。寂しくなった女共にうまいこと利用され自分もそれなりにそれをたのしんでいる。そして自然になるようになったら流されてもかまわない、これじゃ一番始末がわるいよ。彼の妻としてはね。

瑠璃子自体納得いかないふざけたまねの犠牲者だからもんどりうってしんじまうー。

8月に会って、10月初め電話があり「瑠璃子さん東山魁夷のチケットがあります。よかったらいっしょに」
とさそわれた。
絵を見た後のお茶で「これからは正式につきあってくれませんか」といわれた。
瑠璃子は26だった。
「もう、私は若くない。ダラダラと男性と付き合いたくない」
「そうですか、わかりました。そうしましょう。では来週僕の下宿にきませんか」

といわれ、なにがなんだかわからないまま、休みの度に彼の古里で親にあったり、うちにきて親にあったり、仲人にあったりして,いわゆるデートがそれで、映画にいったことさえなかった。

11月に結納した。
12月結婚となったが、式場の都合で、1月に結婚した。

結婚前、冬の日、鍵はわたされていたので、陸男のアパートに掃除にいき、偶然、日記をみつけた。

ソコには悪びれず、「夏の日、他の女性と尾瀬に3泊で行って、一泊は同じ部屋に泊り、朝、彼女が起きないので体をゆすっておこしてあげた」と書いてあった。
「其の人今どうなっているんだろう」
陸男からきいたことはない。瑠璃子はもうなに一つかんがえられなかった。

あたまは真っ白。慌てて日記を元に戻し掃除もソコソコで逃げるように家にかえった。誰にもいえなかった。両親は結婚を大変喜んでくれていた。
結婚の案内等すべておわっていた。
そしてよていどおり1月に結婚した。
それでもあの女性のことが頭をはなれない。幸せどころじゃなかった。
苦しくて瑠璃子はすがる思いで先輩に相談にいった。

「瑠璃ちゃん。なにはともあれ、もう君は結婚したんだ。彼を信じてこのまま幸せになるんだ」
月日はたちやがて、二人瑠璃子は子供を授かった。陸男はなにもあれから変わったことはなくよき夫であり父親ではあった。
でも片ずけるものはその時にきちんと片ずけるべきだったと瑠璃子はあとでしった。

ある夜、ふと陸男が「実はあの尾瀬の女性とズット同じフロアー働いているんだ10数年」とつげた。
また悪夢が本当によみがえったのだ。時間でいうと私なんかよりもずっと長い時間を会社であの女性といるのだ。瑠璃子が陸男にあっているのはわずかな時間。夫婦なんてそんなものだ。
もしかしたら、陸男はあの女性のアパートに時々行っていて子供もいてすでに認知しているかもしれない。そのおもいは瑠璃子を地獄へ追いやるのに十分だった。

「職場を替わってください。あの女性と貴方がいっしょにいるのは耐えられません」。
といったが陸男は、ハローワークにいくことも、異動届をだすこともせず、ただ
「今の職場だけお金がもらえない。どうやって2人の子供をやしなうのだ」。