「えぇー、では。公平なジャンケンによって、今日の掃除当番は佐賀と片岡に頼む。二人ともよろしく頼むぞ。」

最悪だ。今日は早く帰って溜まってたドラマとか消費しようと思ってたのに______

春風が心地よく通り抜ける教室。
放課後のチャイムがなってから約30分。クラスメイト達は割と早く帰った。

朱里は今、もう1人のジャンケンの敗者、片岡くんと二人で黒板を掃除している。

「あははー…残念だったよねー。教室掃除を二人でやれとか先生何言ってるんだろうねー!」

重い。空気が。片岡くんと絡んだことはなく、話す内容も特にない。

「・・・」

なんか言えよ。と思いつつ、朱里は間を持たせるために考えてみる。

「片岡くんってさ、マスクずっと付けてるよねー。なんで??」

片岡くんははっきり言って目立たない。常にマスクだし、メガネだし。休み時間も教室の隅で本を読んでる。

「別に……。」

小さな声で呟く片岡くん。
コミュニケーションを取る気は無いのだろうか。と朱里は少し腹が立った。

その時、事件は起きたのだ。
朱里が盛大に手を滑らせた事で黒板消しが片岡くんの顔面に直撃した。

「ごめん!!本当ごめん!大丈夫!?」

咳をしながらマスクとメガネを外した片岡くん。

「大丈夫……っす……。」

「……!?!?」

朱里の体中に電気が走った。
そんな感覚だった。
何だこのイケメン。どタイプすぎる。

片岡くんの顔をじっと見つめたまま固まってしまった。

「あの……」なんて言いながら赤らめた顔を隠している姿に、数分前まで彼に対して腹が立った事なんて忘れてしまった。

「これで、終わり。掃除。私、帰る。」

変な片言を呟きながら朱里は教室を飛び出した。

なんだこれ。なんだこれ……!?
今まで感じたことの無いビリビリとした感覚は、夕日が落ちていく空と溶け合って、月が光りだしても消えなかった。