そう言って彼の左手が伸びてきたかと思うと、強引に私の腕を掴んだ。

そしてそのまま引き摺る様に教室へ向かう。

掴まれたことに驚いて一気に心拍数が上がるが、そんな私を余所目に彼は扉を開ける。


『ガラッ!』


教室の中にいた人達は私達を見つけると、そこに存在していた音が一瞬で消えた様に静まり返った。

その様子とは反対に、私の胸の音はどんどん大きくなってドコドコ音を立てていく。

彼に腕を掴まれていることへのドキドキと、楠木さんへの不安で、心臓は大合唱。

中原君は周りの様子を気に留めることもなく、私の腕を掴んだままズンズン歩く。


すると静寂の中、楠木さんと目が合ってしまった。

だが彼女の表情を読み取る前に、彼女は私から顔を逸らした。

彼女の態度の意味が分からず混乱していると、気付かないうちに自席まで着いていて、彼は私に座るように促した。

そして席に座った私の顔を見ると一瞬微笑んだ後、踵を返して自分の席へと歩き出す。

私は一人残され、どうしたら良いのか分からず、彼の姿を見つめながら呆然としていることしか出来ない。

未だ続いてる静寂の中、中原君が『アツヒロ』と呼んでいたチャラ男くんが彼に駆け寄っていく。

それと同時に、少しずつ教室に喧騒が帰ってきた。

回りが騒がしくなったので彼等の声は私のところまでは届かないが、じゃれ合いながらなにか盛り上がっている。