後ろから聞こえてきた声に振り返ると無表情の香織が居た。


「トイレ、あっち。ちなみに出口もあっち」


香織は私の歩いてきた方向を指を差す。
どうやら反対方向へと歩いていたらしい。


あ!

中原君は!?


先程彼が居た方へと勢いよく振り向いたが、そこには彼の姿はすでに無かった。


「瑞季、携帯持ってないんだから迷子にならないでよね」

「すいません……」


ホールへ出るとうんざりするくらいの人だかり。


さっき、周りには誰も居なかった。

中原君は私を見ていた。


目頭が熱くなる。


自惚れでも良い。

勘違いでも良い。


こんな人がいる中で中原君と目が合うなんて……。


言える。

きっと言える。


臆病な私の心を押してくれた彼の瞳。


まだ劇場内。

見渡してみたが彼の姿は見当たらない。


明後日。

絶対、話し掛ける。

そして気持ちを伝えよう。

こんな想いを抱き続けるよりマシだ。


どんな結果になっても絶対後悔しない。