受け取ると急いで中原君の方を見るが、彼はもうこちらを見てはおらずノートを取っていた。


さっき目すら合わなかった。

中原君はただ頼まれた肉まんを渡しただけだ。


でも、一瞬でも、中原君は私の事を考えてくれた……。


久々に聞いた、私に向けられた彼の声に授業中なのに涙が出そうになった。




……このままは、嫌だ。


中原君の声が聞きたい。


偶然拾った話し声じゃなくて、私にだけ向けられた声が欲しい……。

彼に好きな人が出来たとしても、辛いけれど、近くに居たい……。


今からでも、


遅くないかな?




彼の声を聞いて心がやっと動いたが、五ヶ月間動けなかった身体を簡単に動かす事は出来なくて……。


話し掛けたい、でも怖い。


臆病な私は、毎日、永遠とこの葛藤を繰り返す。

しかも途中に席替えがあった。
今度は一番前の席の後嶋君の主張。

私は真ん中の列で前から三番目の席になった。
成実とは久しぶりに前後の席になれたけれど、中原君とは一つ斜め後ろの席だったのに、廊下側の一番後ろの席と大分離れてしまった。

更に中原君に話しかけにくくなってしまった。


そして気がつくと明日はもう演劇鑑賞会の日だった。

話し掛けると決心した日から、五日が経とうとしていた。