「これ、アツヒロに回して」
そう言って一番前の席の後嶋君は肉まんを後ろの席の子に回すように頼んでいる。
授業中に。
先程遅刻してやってきた後嶋君がアツヒロ君に頼まれたのか、授業中にも関わらず肉まんを回し始めた。
後嶋君は廊下側の一番前、アツヒロ君は一番後ろの席。
あそこからあそこまで授業中に回す気ですか……?
しかも皆、従順。
先生に気付かれないように上手に回している。
……私が受け取ったら食べてやるかもね。
あ……、
次に中原君が受け取った。
その次渡すなら近いのは私だ。
……でも、私に渡すわけないな。
だって五ヶ月くらいまともに話していない。
期待はしない。
私の前の中原君から隣の席に渡すだろうと思い、黒板に視線を戻す。
先生が黒板へ向き、書き始めた文字を写そうとノートに目を動かそうとした瞬間、
「はい」
懐かしい低い声と、視界の端っこには肉まん。
「アツヒロに渡して」
私は目を見開いて固まってしまった。
「聞こえてる?」
私はハッと焦りながらもとりあえず肉まんを受けとる。