「愛子は結構誤解してんだよ」

「何を?」

「その子とは何回かしか会ってないしさ。愛子が思ってる様な事なんて何にもしてないぜ!」

急に弁解じみた口調で声が大きくなった。

イライラしていた桃は少し意地悪な言葉を返した。

「まだ。でしょ?」

けんは、バレたか。と言う様にニヤリと口の端で笑った。

「ばがっ!」

桃は少しけんから離れて言った。

他人事なのになぜか悔しくて少し涙が出ていた。

思いきりイーッと口を横に開いて嫌な顔をしてやった。

その顔を見てけんは、驚きの混じった顔でブーッと吹き出した。

「今の顔おもしれぇ。もう一度やってくんねえ?」

桃はその言葉を無視して、部活の始まる講堂へスタスタ歩き出した。

愛子とけんにその後どんなやり取りがあったか分からなかったが、桃が部活を終えた下校時には裏門は静まりかえっていた。

桃は携帯を取り出すと、

(愛子、けんちゃんと帰ったの?)

送信するとしばらくして

(今日は一人で予備校行ったよ)

と帰ってきた。

(んーやっぱダメなのかなあの二人?)

などと思いつつまたおばちゃんが座っているであろう病院の方向へ自転車を走らせた。

かえって二人の関係を悪くした様に思えて、
「おせっかいだな私。ばがっ!」

桃は自己嫌悪で自分の頭を叩いた。