いつもの様に病院脇の坂道を下りていた。

もう昨日のおばちゃんには会わないだろうと思いつつ進んで行くと、

「えっ?いる」

昨日と大して変わらない服装で、遠いバイパスの方を見つめる姿が見えた。

「げっ。これじゃ顔見知りになっちゃうよ」

おばちゃんはまた桃の方に振り向いた。

昨日と同じく無表情なままだが、今日はなぜかとても不安な顔に見えた。

桃を見るとまた会釈をする。

仕方ないので桃もまた、会釈を返した。

(単なるいかれたおばちゃんなんだろけど…)

やっぱり気になる。

「なんであんな所に座ってるんだろ?」

桃は通り過ぎてしばらくしてから、呆れた感じで声に出して言ってみた。

(でもいつも一人きりで不安げな表情のおばちゃんが気になるし、これから家で客のエロオヤジをあしらってる位なら、あの人と話してた方がまだましか。嫌な選択だわ)

と考えながら帰った。

夜から雨が降り始めた。

最初は雨の中慌てて入って来る客もいたが、その後ぱったりと客足は途絶えた。

そんな日は早めに店仕舞いだ。

桃は母が暖簾をしまって戸締まりするのを見て、先に二階へ上がった。

家族分の布団を敷いてから、自分の見たいテレビをつけてみる。

しとしと降る雨音に少しおばちゃんを思い出した。

(どうしたかな?)