随分栓抜きの手つきも慣れてきている。

あまり音を立てずに栓を抜くと、戸川の持つ泡の残るグラスに注いだ。

戸川はずっと桃を見ている。

額に汗を滲ませて麺を盛り付ける父はこちらをちらりと見ただけだ。

母は知らん振りのつもりか奥のテレビのナイター中継を見ている。

ダン!

桃は注ぎ終わった瓶を戸川の脇に置いてゆっくりカウンターの中に戻った。

「冷たいなー桃ちゃん。少し話してったって良いじゃん」

(うちはホステスと違うよ!)

桃は出来たラーメンをわざと忙しそうに運びながら、戸川ににっこり笑顔を見せた。

(そんな暇ありませんから)

戸川はその笑顔で少し満足したのか煙草に火を着けている。

「お待たせしましたー」

大抵ラーメンを出すと客は喜ぶ。

まさかこんな場末のラーメン屋で、十代らしき少女が働いているとは予想してないからだろう。

戸川だけでなく桃目当ての客は数人いる。

でも桃はあんまり嬉しくない。

両親はそれについて話はしない。

暗黙の中でそれを利用してるのかもしれない。

でも自分達は彼らお客のお金で生きている。

それをいつからか桃は承知していたから、何も問う事はなかった。

10時を過ぎると、父がもう寝ろと言ってくる。

桃はゴミをまとめてから、一人で布団に入った。