「いいから後ろ乗れよ」

翌朝病院前の交差点で落ち合うと、タツミはそう言ってきかなかった。

「だって無理したら息が苦しくならない?」

「大丈夫だよ!鍛えた方がいいんだよ」

タツミの論理もあやしいとは思ったが、一歩も引かないタツミの気持ちが嬉しくて、桃は病院の駐輪場に自転車をこっそり止めた。

タツミに掴まると、桃は自転車の後ろに座った。

(サドル座るの痛いなんてボヤいちゃったからな…)

坂道に入り、必死な顔でタツミはペダルをこいでいる。

桃はタツミの体に回した腕にぎゅっと力を入れた。

背中に耳を押し付けると、昨日の夜、タツミの胸で感じた温かさと心臓の鼓動が聞こえた。

その時後ろから、一台のバイクが桃達を追い越した。

「頑張りすぎー!熱すぎー!」
そう言って後ろで愛子が手を振っている。

桃は手を上げて愛子達を引き止めた。

「待ってー愛子!今日学校着いたら、浮気封じ教えて!」

けんの肩を叩いてバイクを止めた愛子は、事の次第を察して二人を見るとニャッと笑った。

「よーし分かった。びっくりするなよー」
愛子はそう言い残して走り去った。

タツミは何かを察したのか、真っ赤な顔で下を向きペダルをこぎ始めた。

病院から続く長い坂道が終わり、学校まで見渡せる場所に着いた。