「その子多分私と同じ中学の筈だけど、見た覚えないんだよねー。中山って言うんでしょ」

愛子は不思議そうな顔をしていた。

タツミが退院してしばらくしてから、引退まで半年を残していた部活を桃は辞めていた。

それまでずっと続けてきた演劇から離れる事はつらかったけれど、皆そろそろ進路を決め始め、愛子の勉強の話を聞く度に焦っている自分がいた。

愛子は都会の女子大を目指していた。

桃にはそんな経済力が自分の家にない事も分かっていた。

ただ焦りだけが募って、放課後タツミと一緒に勉強する事にした。

半分はタツミと一緒にいたい口実でもあったのだが。

「じつはさ、年は同い年だけど、学年は一個下なんだ…」

「ゲー!年下ー?私それ圏外」

「いいんだょー私は!」

桃は変にムキになった。

「で、部屋で二人っきりって…ヤッたんですか?」

愛子は楽しそうに目を輝かせて覗き込んで来る。

「キャー!何言ってんのー清らかな交際ですぅー」

桃は口を尖らせた。

「そいつ絶対童貞だよー。桃から誘わなきゃ。姉さんなんだし」

桃は少し悲しくなった。

「姉さんとか言わないで。私タツミの事、男として好きなんだから…」
(でも最近タツミ、キスより他にしたそうな感じ…)

「でもまだそういう気持ちないし」