「私はあの日、当直ではなかったんですが…」

ためらいながら看護婦は話し始めた。

「朝出勤してから、守屋婦長が交通事故で夜に搬送され、亡くなったと聞かされたんです」

桃は自分の耳を疑った。

「運転席のご主人は一命をとりとめたのですが、人工心配で命をつないだ状態が続いていました。回復の見込みは全くない絶望的な状況でした。
守屋婦長はお子さんがいらっしゃらなかったので、離れて暮らす旦那様のご兄弟と、甥子さんなどが集まりまして主治医と相談の結果、人工心配を外す選択をされました」

桃は驚いて、ただ看護婦を見つめていた。

「ありがとうございましたっ!」

そう言って頭を下げると廊下を走り、三階へ階段を駆け上った。

(タツミ!タツミまで幻だなんてそんな事ないでしょ!)

もう病棟には早い夕飯が配られ始め、廊下には数人の患者がお膳を取りに来ていた。

桃はその人達にぶつからない様にすり抜けて、タツミのいる305号室に駆け込んだ。

夕食を目の前にした患者達は、髪を振り乱して血相を変えた女子高生の乱入に呆気に取られている。

横から聞き慣れた大きな声がした。

「誰かと思ったらあんたかい!たっちゃん、彼女が来たぞ」

タツミはお膳をテーブルに置いたまま本を読んでいた。