夕方おばちゃんに会うと、いつもタツミとの事を報告した。

その度に
「良かったねぇ」
と言って自分の事の様に喜んでいた。

朝の登校時は窓際のタツミに照れながら手を振った。

ピューッ。

奥からは上手な口笛が聞こえた。

ふと、桃は気になって一つ下の階の窓に視線を移した。

今まで道路より下の窓を見た事はなかった。

半分カーテンの引かれたその窓際には、真っ白なギブスと包帯で固められた山脈の様な姿の患者が、たくさんの管に繋がれて横たわっていた。

それは生きてる人だろうけれど、あまりに固められすぎて本当にそうなのかさえ、桃には分からない程だった。

そしてその傍らには、優しい顔でじっと座っている、おばちゃんがいた。

「あ…」

あまりの衝撃に桃は口を押さえた。

思わずそのまま自転車を押して走っていた。

(今まで私がタツミと笑っていたその下では、あんな状態の旦那さんをおばちゃんは看護していたんだ!)

桃はあまりの罪悪感に震えていた。

その日も桃はぼーっとしていた。

なぜ、おばちゃんの旦那さんはあんな姿になってしまったんだろ?

考えても考えても、頭の中がめちゃくちゃになってよく分からなかった。

ただ一言、浮かれていた自分のためにもおばちゃんに謝りたくて、1日が過ぎていった。