ちょうど午後2時頃になると客足が一段落する。

桃達は交代でお昼を食べ、休憩した。

桃は両親が休憩してから、恋煩いで空かないお腹に、無理にバナナと牛乳だけ流し込んだ。

「ちょっと友達ん所行ってくる。1~2時間で帰るから」

とだけ言い残して自転車に乗った。

言葉に偽りはない。ただその友達は病院に入院している、言葉さえ交わした事のない、桃の一番大切な男の子だ。

桃は、休日の昼間に通学路を走っている自分が不思議な感じだった。

バイパスから平坦だった道が緩やかに登り道になり、突き当たりに病院が見える。

いつもおばちゃんが腰掛けてる椅子には、今日は診察を終えて迎えを待つ老人が、杖を持って座っている。

桃は病院の門をすっと入ると自転車を降りた。

「チチチチ」

道路向かいの鬱蒼とした神社の木立から、幸せそうな鳥の鳴き声が聞こえてくる。

桃は病棟脇に駐輪場を見つけて自転車を止めると、ガラス張りのロビーへと向かった。

何だか用もないのに来てるみたいに感じて、変なドキドキ感で頭がグルグルしている。

幼い頃ここに祖父が入院していて、母に連れられて来た事を、桃はぼんやり思い出していた。

受付で三階のナースステーションの場所を聞くと、そちらへ恐る恐る進んでいった。