その夕方、すぐに朗報なんてないだろうとは思いつつ、それでも期待でドキドキしながら桃は下校していた。

「頑張れよー!」
愛子がけんのバイクで手を振ってた姿を思い出した。

坂をゆっくり下ると、おばちゃんの姿が見えた。

すると待ちきれぬ様子でおばちゃんは立ち上がり、顔を輝かせている。

桃もその様子が吉報なのかと思うと嬉しくて、笑顔になってしまった。

「ギィー」

桃が前に止まるとすかさず、まるで井戸端会議で話しかける様に、手をひらひらさせておばちゃんは言った。

「あんた!分かったよその男の子。ナカヤマタツミっていうんだよ。16歳なんだよ」

「私と同い年だっ!」
桃は思わず言ってしまった。

「明日土曜だろ。なんか用事あるかい?」

「えっ?家の手伝い…」

「それちょっと抜け出して来てさ、おばちゃんその子に、逢いたがってる子がいるって伝えるから、お見舞い行ってみな」

「は、恥ずかしい…」

「もう逢えなくなるかもしんないよ!おばちゃんあんたの為に頑張るつもりなんだよ?」

随分強引だったが、そんなお節介さえ温かく感じて、桃はおばちゃんに行くと約束した。

「面会時間は午後2時から6時だよー。絶対行くんだよ!」

桃は少し走ってから、また振り向いた。

少し遠くなったおばちゃんは桃に向かって、

「おばちゃん絶対あんたたち上手くいくと思うんだよ!」

と言った。

妙に使命感に燃えたその言葉が、なぜか桃は一番心強く感じた。

気合いが充電されて桃は頷くと、また前を向いて自転車を走らせ始めた。