「あんた最近、病棟の窓覗いてんねぇ」

桃はギクリとした。

「どこの窓見てんのよ」

「いぇっ、いぇあのぅ…」

今更見てませんとも言えず、「三階の病室の人と良く目が合うもんで…」

「三階って言うとー…内科か、循環器科か」
「あんた気になんだねその人?」

「いっ、いやいやそんな事ないです」

「あはは!隠さなくたっていんだよ。おばちゃんその下の二階で旦那の看護しててぜーんぶ見えてんだからさ」

見られてる事に全然気が付いてなかった桃は、また恥ずかしくて顔から火が出そうだった。

「おばちゃんがさ、話ししてやろっか?この病院に若い男は特に内科なんてそう長期入院しちゃいないから、すぐ分かるよ」

いつもの桃なら必死に断る所なのだが、その時には藁をも掴む思いだった。

「ちょっと逢ってもらいたい女の子がいるって言ってさ、向こうだって暇だろうから、嫌だとは言わないだろうさ」
「おばちゃん頑張るよ。また明日ね!」

桃も大きく手を振ると、これからの事を考えて震えていた。

汗ばむ手でハンドルを握り締め、家まで帰った。

でもふと思った。おばちゃんの旦那さん、どうしたのかな?大丈夫なんだろうか。

丁度2ヶ月位前、初めて見かけた頃のおばちゃんの不安そうな顔を桃は思い返していた。