その日は快晴だった。

早めに家を出た桃は、ゆっくりと自転車を押しながら病院脇の坂を上っていた。

歩道の横はコンクリで固められた崖になり、数メートル下が病院の敷地だ。

丁度病院の三階が歩道の高さと同じ位になっている。

「ガラガラ!」

急に音がしたので驚いて病院の窓へ顔を向けると、そこにはちょうど桃と年格好の近い少年が、青白い顔で立っていた。

なぜか眼差しがとても深い様な気がして見入ってしまった。

でも向こうもこちらを見ている。

それに気付くと桃はパッと目を逸らした。

途端にカァッと頭に血が上り、耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかった。

通り過ぎてからちらりと振り返ると、少年はずっと桃の方を見ていた。

今度はしっかりと目が合ってしまい、桃は慌てて自転車を押して走り始めた。

ずっとその日はぼーっとしていた。

大した話ではないのに、愛子に言ってみたくてたまらなかった。

でも、今まで何人もの彼氏と付き合ってる大人っぽい愛子に話したら、

ただ目が合っただけでしょ?小学生みたい。

なんて笑われそうで話せなかった。

それからの桃は自分でも変な奴と思いながら、病院脇を通る度にその窓を覗き込む様になった。

そこは沢山のベッドが並ぶ、病室だった。