病院の前はY字の交差点で、桃の通学コースだ。

方面の同じ愛子と共に、部活が終わると自転車で坂を下り、その交差点を通過する。

そこは地元でも有名な大病院で、奥には迷路の様に入り組んだ、巨大な病棟が連なっている。

桃は日暮れにその道を通るのが、怖くてたまらなかった。

愛子が受験勉強の為に部活を辞める事になり、これから帰宅時は、坂から勢いをつけて全速力で通過する事に決めた。

桃の家は、高校から自転車で40分程の距離にあるバイパス沿いで、ラーメン屋をしている。6~7人座れば満席の、お世辞にも綺麗とは言い難い店だ。

駅前程の賑わいはないが、幹線道路に面しているので、昼間や夕方にはパラパラと客が入っていた。

愛子と下校しなくなってから数日が経った、ある日の事だった。
その日は今度の演劇発表会に向けて配役が決まり、かなり遅い時間になってしまった。

所々窓から光の洩れる、暗く沈んだ病院の脇を全速力で下りていくと、三叉路の先端部に白い物が見えた。

いつも昼間見ると、そこにはタクシーを待つ人の為なのか、廃品と思われるオフィス用の椅子と、雨でくすんだプラスチックのデッキチェアが、ちぐはぐな様子で並んでいた筈だ。

桃は思わず呟いた。

「わっ!お化け?」