ジリリリリリリーー

枕元でなる機械音に朝だと思いながら手探りで目覚まし時計を止める。

「ふぁ~~」

大きなあくびを溢し、重たい瞼を擦った。

朝6時。

今日から七瀬玲としての日常が始まる。

昨日、眠りにつきながら思ったことがある。

今日から玲の両親をお母さん、お父さんとちゃんと呼ぶこと。

違和感しかないけど。

私より年下だけど、蓮をお兄ちゃんと呼ぶこと。

呼んだ事ないから歯がゆいけど。

そして一人称は玲と言うこと。

自分は玲の人生を借りてるんだって忘れないように。

自分がやり残したこと、玲が出来なかったこと。

これ以上悔やまないようにしよう!

玲の居場所をちゃんと作っておかないと、戻ってきた時に変われないから。

起きて、リビングへ行くと、いい匂いがした。

「おはよう玲」

「お母さんおはよう」

お母さんはいそいそと朝食の準備をしている。

「何か手伝おうか?」

「んー。大丈夫よ。顔洗ってきちゃいなさい」

「はーい」

何だか、変な気分。

数日前までは私がキッチンに立って子供たちに言っていたのに。

洗面台で顔を洗い終わると

「やぁ、凛」

鏡の中の私の肩にルウクが座っていた。

「あ、ルウク!しばらく出てこないからもしかしたら夢なんじゃないかと思ってたよ」

「夢じゃなくて残念だったね」

「ねぇ、ルウク。聞きたい事があるんだけど…」

「何?」

「玲の体で私に会いに行く事や家族に会うのはアリなのかな?」

気にならないはずがない。

ちゃんと御飯食べてるのかなとか、学校行ってるのかなとか…

私が居なくても日は登り沈む。

元気な顔さえ見れればそれだけで安心する。

「いいんじゃないのかな?凛がそうしたいなら」

「本当に!!」

「何だか元気になったね。顔色が良いよ。こないだは玲自身までも死んでしまいそうな顔してたのに」

「なるようになれだよ。折角ルウクにもらったこの時間。悔いがのこらないようにしないと!死んだ時に悔いが残ってたら成仏さえできなくなっちゃうじゃん?」

「そっか。今後の君が僕も楽しみだよ。それじゃ、またね凛」

ルウクはスーと鏡の中の私の肩から消えた。

「ルウクだけだよ…今の私に凛って呼んでくれるのは」

寂しい気持ちを抑えて、リビングへ戻った。