玲のお父さんの後ろをついてリビングに入ると、玲のお母さんはキッチンでお茶を入れていた。

ソファーにはこれまた見知らぬ男の人が座っていた。

「玲、お茶入れたから座って!」

玲のお母さんは小走りで駆け寄るとテーブルに人数分のティーカップを置く。

玲のお母さんが座ったのを確認して隣に腰掛けた。

「玲、無事で良かったな」

見知らぬ男の人は私に無表情ながら話しかけた。

「う、うん」

戸惑いながらも返事をする。

「玲、家に帰ってみて何か思い出した事はない?」

「…ごめんなさい」

申し訳なさで一杯になる。

「謝らなくていいのよ。ゆっくり思い出そう」

玲のお母さんの手が私の手に重なる。

「へぇ~、本当に記憶がないんだ?」

珍しいものを見るかのように男の人は前のめりになって私を凝視する。

「蓮、そんな事言わないの!」

男の人は玲のお母さんの言葉に不貞腐れた表情を浮かべるとソファーに背中を預けた。

「玲、この人は七瀬蓮〈ナナセ レン〉4つ年の離れた玲のお兄ちゃんよ。そうだ!」

玲のお母さんは男の人の自己紹介をすると立ち上がり後ろのクローゼットへと走った。

お兄ちゃんがいるんだ。

私は一人っ子だったから、兄妹がいる家庭に憧れがあった。

「皆で、これ見よう!」

クローゼットで探し物をしていた玲のお母さんはバサバサとテーブルに分厚いアルバムを何冊も置いた。

「何か思い出すかも知れないしね!」

楽しそうにアルバムのページをめくる玲のお母さん。

そして、写真一枚一枚に説明を加えてくれる。

七瀬玲がどんな17年間を送ってきたのか。