あたしの質問をすっ飛ばして先手を打ってきた柿谷さんに、あたしは青筋を立てて笑みを浮かべる。

「お気遣いありがとうございます」
「でさ、今夜暇?暇だよね?」
「予定があります」
「晩飯行こうよ」
「とても大事な予定があります」
「仕事終わったら、連絡くれるかな?」
「連絡は出来ません」
「これ、俺の連絡先」
「頂けません」
「大抵9時残業だけど、今日はそっちに合わせて、早めに上がるから」
「柿谷さん、聞いてます?」
「連絡くれるよね?」
「だーから」

いい加減にしろこの馬鹿が!

怒鳴りたい気持ちを抑えて、凄む。
と、途端柿谷さんの目がすわった。
あたしの手首を掴んで、低く囁く。

「俺飲むと結構口軽くなるんだわー、面白いネタだと特に。
社内一美人社員の失恋と転倒、なんて、最高のネタだと思わねぇ?」

転倒はともかく、なんで失恋まで・・・

決定的場面に鉢合わせた彼女と、彼以外知る由も無いトップシークレットを、どうして目の前の馬鹿男が知っているのか。

一気に背筋が凍る思いがした。
もしかして、噂になってる?
彼は、言いふらすような人じゃ、決してないけど。
男なんて、やっぱり信用できない!!