「そ、そんな事ないですっ・・い、いつも通りです・・よ」

「・・・愛想突かされるかと思った」

「っ!そ、そんな事・・・」

「ほんとに?」

そんな優しい顔で訊かないでよ!!!

繋いだままの手を強く握りしめて彼が確かめる様に囁く。
いつもの茶化すような口調じゃなくて、心から心配している事が分かる。

胸が締め付けられるように苦しい。
彼の視線を真っ直ぐに受け止める自信がない。

「・・・は・・・はい」

俯いたあたしの返事に、柿谷さんは不承不承納得したようだった。

「一人で抱えてる事があるなら、相談に乗るから」

「・・・はい」

「映画、次はミステリーとか、アクションにしようか?」

「そう、ですね」

曖昧に頷くあたしの手をしっかり繋いだまま、彼がカフェに入っていく。
追及されなかった事に安堵しつつ、彼に続いた。

好きな相手に、好きって言えずにいるのって、こんなに苦しいんだ。

もう、いっぱいいっぱいで泣き出しそうなあたしの気持ち。
ひた隠しにするにも、限度がある。
こうして繋いでいる指先から、気持ちが溢れそうで怖い。
あんな事言うんじゃなかった。

強気発言で、好きにならない、と言い切ったあたしを叱りつけてやりたい。

天気の良い昼下がりなので、テラス席も盛況だった。
ベンチタイプの席に案内されて、一息つく。

と、前のテーブルに座っていた美人が振り向いて、驚いたように柿谷さんを呼んだ。

「やだ、貴壱?」

「りえ」

柿谷さんが彼女の顔を見て、驚いた顔になった。
彼より僅かに年上と思われる、魅惑的な美人は席を立つと目の前までやって来た。
あたしの事をまじまじと見て、にっこりと微笑む。

「久しぶりじゃないのー、なに、デート?可愛い子ねー、何番目の彼女よー?
最近連絡くれないから、寂しかったのよ。
近いうちに二人で会えない?」

彼女の言葉で、この二人の間で何があったかすぐに察しがついた。

この人は。柿谷さんの沢山いた彼女のうちの一人だ。

彼が言うところの、それなりに可愛くて、体の相性が良くて、男のあしらいかたを知っている、遊び相手には持って来いの女性。

随分前に聞いた事なのに、目の前で実際の相手を目の当たりにすると、胸の奥がざわついた。

あたしの知らない彼を、この人は知っているんだと思うと、苦しくなる。

「ごめんな。もう誰とも連絡取ってないんだ、機種変したし」

「あら、そうなの?どうりて周りの女の子たちも、寂しがってたはずだわ」