「映画、恋愛ものの方が良かった?」

映画館を出るなり、柿谷さんに尋ねられてあたしは慌てて首を振った。

「そんな事無いです、面白かったですよ?」

笑顔を浮かべて何とか逃げる。

上映中も上の空だった事に気づかれていたらしい。

休日デートしようか、と誘われた時には、嬉しい反面緊張しすぎて、反応に困った。

最近は夕飯デートだって、いつも通りでいられないのに。

一緒にいる時間が長くなれば、長くなるほど、テンパるに決まっている。

やっぱり上手く理由を付けて、断れば良かった?
でも、そんな事して嫌われたら・・・?

ぐるぐる回る思考回路。

じっとこちらを見つめる彼の視線が鋭くて怖い。
そして、距離が近い。

手を繋ぐという最初の提案に頷いてしまった事が、今更ながら悔やまれる。

すっごい罰ゲームだよ!!

どうして簡単に手を繋げていたのか、今となっては理解できない。

こうやって隣に並んでいるだけでも、死にそうになるのに。

「仕事で何かあった?」

お茶をするべくカフェに向いながら、彼が心配そうに尋ねてくる。

好きって自覚すると、こういう一言でも動揺してしまうから困る。

つくづく片思いとはやっかいだ。

「別に、何もないですよ?」

「何か、最近様子がおかしいから・・・」

「え、そんな事ないですっ!至っていつも通りです」

何度も頷いたあたしの目元を指でなぞって、柿谷さんが首を傾げる。

「・・・寝不足?」

コンシーラーとカバーファンデで綺麗に隠したつもりだったけど、ただいま肌の調子は絶不調だ。
敏感肌用の化粧品に切り替えて、ビタミン剤飲んでも直らない。
折角のデートだから、色々と試したいメイクがあったのに、ベース作りに時間がかかりすぎてしまった。

そして、さりげなく距離を詰めた彼から離れるべく、あたしは後退る。

「ちょ・・っと、寝れなくて・・」

「俺の事で、悩んでる?」

「ええ!?」

なんでそこいくの!?
もしかして、あたしの気持ちに気づいているとか!?
そんなに思考回路駄々漏れ!?
顔に出てる!?

慌てるあたしの顔を覗き込んだままで、彼が苦い顔をした。

「避けられてるかと思って」