普通にしなきゃ、と言い聞かせれば、言い聞かせる程、空回る。

柿谷さんを前にしたあたしの挙動不審なこと。

いつものやり取りさえままならなくて、メールの返事に30分悩む。

彼を前にすると、あたしは、普通じゃいられない。

「もう付き合ってるって噂で持ち切りだけど?」

いつもより遅めの昼食を食べに、食堂に向いながら松井さんが言った。

「付き合ってません」

「でも、食事にはよく行ってるよね?駅前で二人でいるの見たって目撃情報上がってるよー」

今村さんが付け加える。

「食事には行くけど、それだけです」

「まだ靡いてないんだ?」

「あ、あり得ないですからっ・・」

あたしが答えると同時に、松井さんが笑顔で言った。

「噂をすればイケメン三銃士よー」

丁度食事を終えたらしい3人が食堂から出てきたところだった。
あたしは、慌てて踵を返す。
手前にある女子トイレに飛び込んだ。

なんで急に出てくんのよ!!!


泣きそうになりながら手洗いに手をついて、肩で息をする。
と、松井さんと今村さんが追いかけてきた。

「なによ、急に隠れたりして」

「だって!心の準備が出来てないんですもん!」

「はあ?」

「駄目なんです!柿谷さんを前にすると、最近あたし、緊張しすぎて、動悸と息切れが激しいんですっ」

ほんとに死ぬかもしれない・・・

とにかく、何だか今は、物凄く彼に会いたくなかった。

「何よそれ・・・」

「だって、あたしの事好きっていうんですよ、あの人!
いきなり目をの前に来るとか、駄目でしょう!反則でしょ!」

必死になって言い返すあたしの肩を叩いて、今村さんが笑う。

「それは前からずっとそうだよー。
ずっと柿谷さんは、仁科ちゃんを追いかけてるじゃん。
でも、ずっと相手してなかったのに、なんで急にいきなり会うのが駄目なの?」

「だから、緊張するからっ」

「なんで緊張するのよ?」

松井さんも面白がるように尋ねてくる。
あたしは胸を張って答えた。

「あたしが病気だから!!」