心底嬉しそうな声を聞いて、悪い気はしない。

あたしも、南野さんの一言で凹んだり、喜んだりしたから。
彼に対して、あたしが南野さんと同じ影響力を持っている事だけが、不思議だけれど。

この見た目にあまり興味が無いらしい彼が、尚もしつこくあたしに付きまとう理由が分からない。

だって、柿谷さんくらいかっこ良ければ、女の子は選び放題だ。

今も、店内の女性客から熱い視線を向けられている彼を見据えて、あたしはずっと抱いていた疑問を口にした。

「あたし可愛くないでしょ?」

「可愛いけど?最近は」

「でも、一緒に居ても楽しくないでしょ?だって、柿谷さんをちっとも喜ばせてあげられないし」

多少の見返りがなくては、普通の片思いは続かない。
あたしが、南野さんを好きでいられたのは、あの運命的な出来事があったからだ。

でも、彼とあたしは初っ端の出会いからずっと、ちぐはぐなやり取りばかり続けている。
あたしは、彼に優しくなれない。
そんなあたしと一緒にいても、面白く無いだろうと思った。

「・・・」

柿谷さんは、黙り込んであたしの顔をじっと見つめた。
それから、椅子の背もたれに、背中を預けて盛大に溜息を吐いた。

「そういう事言うところが、可愛いんだよ。
楽しいとか、どうでもいいよ」

「え・・・」
これまでの甘い口説き文句とは一転、あまりに率直なセリフに思わずあたしは目を見張る。

初めて彼の本音を聞いたような気がしたのだ。

これまで、どれだけ言われても、全くその気にならなかったのに・・

え・・・あれ・・・なんで・・・

急に胸がざわついて、あたしは焦った。

物凄く、好き、って言われた。

何と答えて良いか分からずに、答えに困るあたし。

そんなあたしを見て、柿谷さんが赤くなった顔を隠すように横を向いた。

「そのうち、これまでの分も合わせて、しっかり喜ばせて貰うから、気にしなくていいよ」

素っ気なく付け加えられた強気なセリフは、いつもの彼のもので。

でも、どこか甘い。

彼の態度のせいか、あたしもいつもの強気が出てこない。

自分の気持ちの変化に、頭が追い付かない。

何言ってるんですか、と、受け流すことが出来ない。

どーしちゃったのよ、あたし!!!

狼狽える事しかできずに、その場の妙な空気を返るべく、汗を掻いたグラスを持ち上げて、オレンジジュースを一気に飲んだ。