「俺が見たいのは、綺麗に畏まった仁科さんじゃないから」

この見た目だけを売りにしているあたしとしては、これは要らないと言われると、
若干、いや、かなり納得がいかない。

細心の注意を払って体重管理をして、化粧品にもこだわっているのに。

全力で怒った顔のほうがいいって、どういうことよ!?

「あたしは、綺麗な方を見て欲しいんですけど」

「それ、取り方によっちゃ凄い口説き文句だけど」

誤解してもいいの?
と意地悪な笑みを浮かべる柿谷さんの手を払う。

「怒らせないでって意味っ」

眉根を寄せて小声で言い返すと、彼は肩を竦めて見せた。

「そういう顔が見たくて、会いに来たんだ。
もうちょっと、再会を喜んでくれれば尚いいんだけど。
おかえりなさい、とかないのー?」

「あたしに期待します?それ」

「そのうち期待してみようかな?」

「無駄ですよ」

「はいはい、今日のところは退散しましょう。
リベンジは、二人きりの時にね」

魅惑的な笑みを浮かべて、彼は颯爽とフロアを後にした。


お土産を受け取ってから2日後。
あたしは、柿谷さんの誘いを受けて、夕飯を食べに行った。
ひと月前のやり取り以降、なんやかんやと理由を付けては週1ペースで食事に行っている。

勿論、あたしは彼を好きなってなどいない。

食事に行くくらいじゃどうこうならないって分かっているから、行っているのだ。

”ふたりで会うのは怖い?”

試すような彼の発言にイラッとしたから、というのも理由のひとつだけど。

「コレ、ありがとうございました」

あたしは耳たぶで揺れるガラス細工のピアスを指さした。

「どういたしまして、気に入った?」

「はい。なんか、意外なくらい、あたしの好みど真ん中でした」

「俺のことちょっとは見直した?」

柿谷さんが意味深な笑みを浮かべる。

シンプルなぶら下がりのピアスは、普段のあたしの可愛い系路線とはちょっと外れる。
でも、洋服に女性らしいデザインを選びがちなあたしのこだわりで、
常にアクセサリーは控えめなものを選んでいたので、好みに当てはまっていた。

「・・・人の事、よく見てる人だなって思いました」

「誰でも見てるわけじゃないよ」

さらりと言った彼が、ピザを口に運びながら、あたしを見て笑う。

「意味が分かったみたいで何より」