「ああ、これが引っ掛かると困る訳か」

レースに気づいたらしい。
あたしは眉根を寄せて溜息交じりで答えた。

「ほんとに恐縮ですが、枝に引っ掛からないように、持ち上げて貰えません?」
「はいはい、了解。花嫁さんのベール持つ感じだな」
「あ、そうですね・・」

この緊迫した状況でよくもまあそんなたとえが浮かぶもんだ。
内心呆れながらも、あたしは彼を後ろに従えて、スカートが植木にすらないように慎重に足場の悪い中を進んで、漸く植え込みから脱出した。

裸足の足は、見事に土まみれ。
ストッキングは予想通り酷い有り様だ。
それでも、スカートのレースは無事だった。

さすがにこの足で靴を履くわけにもいかない。
あたしは、佩いていたパンプスを脱いで、二足揃えて持ち上げた。

「変な事お願いしてすみませんでした」
「いいえーお役に立てて何よりです」

ふざけた口調で言った彼が、じっとあたしの顔を見て、口元に笑みを浮かべる。

それが、少しも人の良い笑みではない、と気づいたのは彼のセリフが聞こえてきた後だった。

「素敵な前転披露してくれて、ありがとう。仁科さん」

「っ!!!????」

あたしは声も無く硬直した。