あたしの中で王子様は、後にも先にもただ一人。
南野篤樹その人だけだ。

「そう言っていられるのも今のうちよー。あら、柿谷さん」

丁度食堂に入ってきた彼を見つけて、松井さんが言った。
柿谷さんもこちらに気づいて歩いてくる。

なんで呼ぶのよ!?

今更思っても仕方ないけど、あたしは松井さんの顔を思い切り睨み付ける。

「お疲れさま。聞いたわよ、仁科さん誘ったらしいわね」

「もしかして、相談受けたとか?」

「そんなところです」

今村さんの返事を聞いて、柿谷さんは、あたしの顔をじっと見て、面白そうに微笑んだ。
完全に勝ち誇った笑みを向けてくる。

その自信はどっから来るのよ!?

「じゃあ、当日逃げないようにしっかり見張っといてよ」

敵前逃亡を一瞬でも考えたあたしを見透かしたように、柿谷さんが言った。
呆然とするこちらをそっちのけで、松井さんと今村さんが揃って頷いている。

「勿論ですよー任せてください!」

「なんなら、営業部まで連行するわよ」

「それは頼もしいな」

柿谷がいつものように軽口を叩いた。