一度寝たら、その後誰と寝ても大差ないのかも知れない。

でも、誰とも寝たことのないあたしには、その感覚は分からない。

溺れる程気持ちいいと言われても、信用できない。

「何もされなくて、助かったって言いたいけど、この状況は全然嬉しくないので、言えませんっ」

「俺もさぁ、自分がどうしたいのか分かんないんだよ」

「何言ってんですかっ」

「本気で仁科さんと付き合うのは物凄く面倒そうだし、そもそも処女とかややこしいし。
かといって、きみが嬉しそうに篤樹の話をすれば腹も立つし。
だから、きみが誰かとお付き合いしたことのある女の子なら、もっと話は早かったのに」

「早くない!!
あたしは、柿谷さんみたいな軽い男はお断りですっ!
付き合うなら、本気であたしの事好きになってくれる人じゃなきゃ嫌ですっ。
そういう相手でなきゃ、身体だって心だって許せませんっ」

身体から始まる恋愛もあるだろう。
勢いで始まる恋愛もあるだろう。

でも、あたしは、ちゃんと考えて、悩んで、この人だって思いたい。

そんな恋愛が、少女漫画の世界にしかないのなら、一生あこがれ続けるだけだ。

それを、寂しいなんて思わない。

だって、一瞬でもあたしは南野さんという王子様に出会えたんだから。

「夢と憧れ大暴走の恋愛論だなー」

「うっさい!呆れたら、もうあたしに構うなっ!」
吐き捨てる様に言ったら、柿谷さんがあっさり反論した。

「それは無理」

「なんでよっ!」

「きみのこと気に入ったから」

「気に入らないで下さいっ」

「そうやって強がって噛みつくとこも可愛いよ」

「可愛くないって言ったでしょ!?」

「だから、可愛くないところが可愛いんだよ。
自分の魅力、分かってないの?」

思わずあたしの魅力は見た目です!と言い返しそうになって堪える。

これまでの恥ずかしすぎる出来事が蘇ってきて、カッコつけようが無かったのだ。

「ほかの誰もいらない。本気できみがいい」

さっきまでとは比べ物にならない位、静かな口調。
さあ、何とか反論だと意気込んだあたしは、息を呑む。

「っ!?」

「って言ったら、どうする?」

途端いつもの砕けた口調になって、柿谷さんが言った。

「あり得ない事言わないでっ!合コンは、今回限りだから!」

これ以上パニックに陥ってなるものか!
あたしは勢いよく電話を切った。