「またそーゆう可愛くない事を」

「だからっ、柿谷さんに可愛く思われなくてもいいですっ」

「でも、篤樹には可愛く思われたいんだ?」

「よ、余計なお世話っ」

フラれたって、嫌われたくないっていう欲目は、ある。
好かれなくてもいいから、せめて、嫌われたくない。

恋にならなくても。

「そ、それに・・・あたしを本気で口説こうなんて、思ってないでしょ!?」

お遊びで振り回されるのなんて御免だ。

女子のやっかみがどれだけ卑劣で残酷か、あたしはこの身を持って知っている。

デブでブスな暗黒時代は、クラスの女子から、異端、として笑われ、蔑まれた。

痩せて綺麗になったら、表向きは仲良い顔をして、あたしを綺麗だと評価して、影では批判する。

表裏一体の女子特有の嫉妬や猜疑心。

良くも悪くも目立たず普通でいるのは難しい。

そして、今のあたしには目立たない、というのは無理な話だ。

目立ちたくて、認められたくて、ここまで来たんだから。
あたしの武器はこの顔と体。
それしかない。

そして、そんなあたしと柿谷さんが並べば、どれだけ注目を集めるかなんて、想像するまでも無い。
「さー、どーだろうなー」

全く本音の読めない甘い声。

本気でも、遊びでもどっちでも良いように聞こえるその声音に、あたしは思い切り舌打ちする。

“付き合ってください”
“ごめんなさい”

この一連のやり取りをしたら、綺麗に去る男性しか知らなかった。

まして恋愛未経験のこのあたし。

無理、といっても諦めない相手の対処法なんて分からない。

「ただ、ひとつ言える事はさ」

「・・・何ですか?」

「仁科さん、処女じゃなきゃ良かったのに」

「っはあ!?」

いきなり何言う!?

ぎょっとなるあたしを無視して、柿谷さんは続ける。

「そしたら、あの日俺にお持ち帰りされて、それで、終わってたよ」

身体だけの関係大賛成。
割り切った大人の恋愛大好物。

そんな彼だから、見た目に惹かれたあたしを一度抱けば、それで満足した・・・?

なんだか、物凄く複雑な気持ちになる。