「聞いたわよー、仁科さん!!」

昼食後、フロアに戻るなり先輩社員に声を掛けられた。
振り返ると、満面の笑みを浮かべた先輩が、がしっとあたしの肩を掴む。

「合コン、セッティングしてくれたのね!」

「・・・は?」

理解不明なセリフにあたしは瞬きを繰り返す。

合コンをあたしがセッティング?
するわけないだろそんなもん。

黒歴史のせいで荒んだ思春期を過ごしたあたしの目標は、道行く異性を振り返らせる事。
他人から、綺麗だと褒められる事。

でも、それ以上の事は何にも望んではいない。

恋愛をする予定も無い!!

まぬけにもポカンと口を開けるあたしに向って、先輩社員は話し続ける。

「わざわざ営業部に声かけてくれるなんて、さすがだわ!!
柿谷さんがちょくちょくこっちに来てたのは、その打ち合わせだったのねー」

「え、ちょ、ちょっと待ってください、それ、誰から・・」

「さっきそこで柿谷さんに会ったのよー」

「・・・はい?」

思い切り顔を顰めて問い返すあたしを無視して、先輩社員は部署内の女子社員と合コン話で盛り上がり始めた。

「どういうことか説明してください!」

噛みつく様にスマホ越しに当事者を怒鳴りつける。

商品部に行きます、と言って席を外したあたしは、スマホ片手に会社を出た。
ビルの裏手に回って人気のない歩道でしゃがみ込む。

「どーもこーも、そっちの先輩から聞いただろー?」

「聞いたけど、なんで勝手に合コンなんて!」

「まあ、いわば作戦?」

「意味わかんないんですけど!すんごい迷惑ですしっ」

面白くも無い合コンに参加して愛想笑いを浮かべる暇があるなら、一刻も早く帰宅して
バスタブにお気に入りのバスソルトを入れて、ゆっくり長風呂したい。

「迷惑なのは知ってるよ」

「じゃあ、取りやめにして下さいっ」

「あれだけ楽しみにしてる部署の子たちいいの?」

静かな問いかけ。
思わず、どうでもいい先輩社員や同期の顔が浮かんだ。
ここで、不興を買うのは確かに良くない。

「その為に、わざわざ先輩たちに先に話したんですか?」

苛立ちを露わに問いただせば、茶化すような返事が返ってきた。

「正攻法で攻めて駄目な子なんて初めてだからなー、俺も手探りで口説くしかないだろ?」

「口説かれたくありません!」