「ああ、そっか。仁科さん、キスもしたことないんだもんなー。
俺が初キス奪っちゃうのはマズいかー」

「い、いちいち人の神経逆なでする事言わないで!」

「いや、でも、事実だし」

「あたしの事はほっといて下さい!
からかうのも、やめて下さいっ!!
柿谷さんには、他にもっと遊べる人いるでしょ!!」

「ああ、うん。そーなんだよな」

今思い出したようにしみじみと言って、彼はあたしの頬を指で撫でた。

優しい仕草と、こちらを見つめる熱っぽい視線。
これが思い合っている恋人同士なら絵になるだろうが、あたしと彼は違う。

いうなれば、面白いおもちゃを見つけた子供と、そのおもちゃだ。

彼の身近にいないタイプのあたしを、ただ珍しがっているだけ。

まるで品定めするように動く指は、器用にブラウスの隙間から鎖骨へと滑りこむ。
あまりの早業に非難する余裕も無い。
彼が場数を踏んでいる事をこの身をもって今、知った。

「だからっ」

「適当に遊んで、美味しく頂いて、気が向いたらまたしような、って」

「しませんっ」

「そのつもりだったのに。なんでこんな気になるんだろうなー。
やっぱ顔が好みだからかな?」

さも不思議そうに柿谷さんが呟いた。
「知りませんっ!好かれても嬉しくありませんっ」

「うーわー。そういうセリフ女の子から初めて言われたわ、俺」

心底驚いた顔になって柿谷さんが。腕の力を緩めた。

「かーわいくない」

二人の距離が離れてほっとした途端、彼が再び距離を詰めた。

身を引く余裕も無く、彼の唇に頬を掠め取られる。

「っひゃっ」

んな、なにすんだこの男!!!!

ぎゅっと目を瞑って、今度こそ柿谷さんの腕の中からどうにか抜け出して、あたしはほっと一息ついた。

「可愛く無くて結構です、誤解も解けたなら、用は無いしっ」

これ以上側にいるのは危険と判断したあたしは、すかさず会議室から逃げ出すことにする。

「俺は用事あるんだけどー?」

「何ですかっ!?」

「付き合ってみない?」

聞こえてきたセリフに、あたしは思わず足を止めた。

「な、何言ってるの・・・?」

処女は面倒で、恋愛は駆け引きのゲームと豪語した男が、とんでもない爆弾を投下した。