「俺は、恋愛は駆け引きを楽しむゲームだと思ってる。
欲しい答えを相手からどうやって引き出すか。
所謂心理戦ってやつかな?
相手の心を捕えて、欲しい言葉が聞けたら俺の勝ち。
そういう、気楽なほうが性に合ってる。
そりゃあ、斗馬みたいに長い片思いをするのも、
篤樹みたいに、相手を必死に追いかけるのも悪くない。
でも、俺には合わない。
だから、全力で恋愛します!みたいなタイプは苦手なんだよ」

「それは・・・」

つまり、南野さんに全力投球で猪突猛進に空回るあたしのような生娘は、
まったくお呼びじゃありませんってこと?

でも、食事には行く?意味わからん!!!

「適当に街を歩いて、食事を楽しむ程度のお付き合いなら、あたしは最適だけど。
それ以上を望むとなると処女は重たいので、寝てるあたしに手を出さなかったって事ですか?」

「まーそうゆうとこ。やっぱ、最初は相思相愛になった相手とする方がいいだろ」

気遣っているのかいないのか、良く分からないセリフを吐いて、柿谷さんはそれより、と話題を変えた。

「仁科さんは、優しい俺と、優しくない俺、どっちがいい?」

唐突な質問に、あたしは一瞬答えに詰まる。

どっちったって・・・

逡巡するうちに、彼はあたしの髪をぐいと引っ張った。
痛みに顔を顰めて一歩前に進む。

二人の距離が縮まったのだと気づいた時には、彼の腕はあたしの背中に回っていた。
腰に回された腕の感触に心臓が跳ねる。

あたしが慌てる事を予測してか、首の後ろにも手を添えられた。

つまり、視線が逸らせないって事。

吐息が掛かりそうな至近距離で見つめられて、動揺しない女子はいない。
まして、あたしは恋愛未経験。
自慢じゃないが、異性にこんなに近くに詰め寄られた事はない。

項を撫でる手が髪の隙間に差し込まれて、さらに彼が距離を詰めた。

細身ですらりとした印象を受けていたのに、あたしを抱きしめる腕の力は想像以上に強い。

アイドル顔負けの甘いマスクでも、やっぱり男なのだ。
至極当然の事を今更気づかされる。

暴れる心臓のせいで、否応なく思考がかき乱された。

「どっち?」

魅惑的な甘い声。
頬を唇が掠める。
顔が赤くなったのが自分でもわかった。
胸がざわざわする。
身体に力が入らない。

「ど、どっちも嫌ですっ!!!」

「・・・」

あたしの答えに柿谷さんは一瞬目を見張って、それから笑った。

「可愛いからチューしてあげようか?」

「いりませんっ!」