「やっ、優しいのか、そうじゃないのか、ハッキリしてよ!!」

仮にも助けてくれた恩人に対してその言いぐさはどうかとも思う。

が、最後のセリフがあれじゃしょうがない。

彼がもう少し紳士的だったなら、こちらも友好的になれる、かも、しれないのに。

なんて思いながら柿谷さんを睨み付ける。

柿谷さんは、あたしの質問を面白がるように笑った。
会議室の長机に腰かけてちょっと考えるような仕草を見せる。

「面白い事訊くなー」

「面白くない、ですっ」

「今更敬語使っても無駄だって」

「い、一応会社だし」

「ああ、じゃあ仕事場出たら普通に喋る訳だ。
なら、飯食いに行こうって誘ったら、その時は、敬語なしでよろしく、堅苦しいし」

「い、行きません!」

何が悲しくて裸まで見られた相手と食事をしなきゃならんのか!!
断固拒否!!!

必死に首を振るあたしを無視して、柿谷さんは眼差しを甘くした。
それだけで、ぐんと印象が増す。

柔らかい雰囲気は女性の警戒心を簡単に解いてしまう。

彼に簡単に口説かれてしまう女性たちの気持ちが少しだけ分かる気がした。

そもそも処女は面倒くさい、と言っていたのに、食事に誘うとか意味が分からない。

彼は、気安いその日限りの関係、所謂セフレを望んでいたんだから
未経験のあたしは用無しの筈だ。
まだ誘いをかける理由が見当たらない。

訝しむように柿谷さんの顔を見つめる。
勿論、簡単に気は許さないぞと気合を込めて。

素っ転んだり、泣いたり、裸見られたり。
まず有り得ないような不可解な接点で結びついた二人。

ろくな関わり方してないわ、あたしとこの人。

一夜の甘い夢を見る社内の女性社員が、彼とあたしの一連の事件を知ったら
なにのネタ?と笑うに違いない。

まるでコントのようだ。

それ位、あり得ない出来事ばかりだった。

柿谷さんは徐にあたしのほうに手を伸ばした。
無造作に動かした指があたしの長い髪を捉える。
指で梳いて解ける感触を楽しむように目を細めた。

「見た目といい、そーゆう可愛くないとこといい、ほんっと惜しいんだよなー」

「はい?」

「それで、適当に場数踏んでて、重苦しい恋愛はちょっと、とか言ってくれたら文句なしでお願いするとこなんだけど」

「はあ?」

意味が分からず首を傾げるしかない。
何をお願いされたってあたしの答えはノーだ。