信じらんない!!!!馬鹿か!?

「ね、寝てる私に手ぇだしたんですか!?」

怒髪天を突いたあたしの大声が静かなフロアに響き渡る。

しまった!!!

思わずここが何処かも忘れて暴走してしまった。

慌ててフロアをぐるりと見渡すが、人はいない。
斜め前の席で固まっている杉本さんを除いては。

物凄く微妙な顔でこちらを見てくる彼の視線から逃れる様に俯けば、
茶化すような面白がるような声音が隣から聞こえてきた。

「あーあー・・・ほんっと仁科さん、ドン臭いなー」

誰のせいだと思ってんだよ!?
マジで、頼むから死んで!!!

神様に祈りたくなってくる。
ここは一発ぶん殴ってもいいだろうか。

真剣に悩み始めたあたしの腕を掴んで、柿谷さんが立ち上がった。

「またお得意の早とちり?勘弁してよ。俺、今日から出張なの。
ここで大声で問答してる暇ないから」

「え、ちょっと!!」

問答無用であたしの腕を引っ張って営業部のフロアを出て行く。
必然的にあたしも一緒に行くことになってしまう。
彼の足は、無人の会議室へと向かった。

人気のない廊下を進んで、一番手前にある小会議室に入ると、柿谷さんはあたしの腕を離した。

「で、きみはまーだ寝ぼけてんの?コーヒー要る?」

「いりません!」

「何をそんな怒ってんの」

「なんで開き直ってんのよ!、腹立つ!」

当然あたしの怒りは収まらない。
とにかく、悪かったと言わせなくては、仕事に戻れそうもない。

反対に柿谷さんはさも面倒くさそうにあたしの方を見た。

「開き直るって何が、俺、感謝されこそすれ、怒らせるような事した覚えないけど?」

「はあ!?昨日の事、忘れたとは言わせないから!!
あ、あたしと・・・っしたくせにっ!
は、初めてだったんだから、謝ってよ!!!」

口に出すのも恥ずかしい言及だが仕方ない。
だって事実だし。

死にそうになりながらも言い切ったあたしが、顔を真っ赤にして返答を待つこと10秒。

目の前の柿谷さんは、あんぐりと顎が外れそうな程口を開けた。

「誰と、誰が、何を、したって?」

「二度も言わせないでよ!あんたとあたしがエッチしたって事!」

決死の覚悟で告げると、柿谷さんは心底呆れたような顔で溜息を吐いた。