今までで一番早い、7時半過ぎに会社についた。
無人のロッカーで着替えて、足早に営業部に向かう。

勇み足でエレベーターを降りたら、隣のエレベーターから、営業部の杉本さんが降りてきた。

南野さん、柿谷さんと並んでイケメン三銃士と呼ばれている人物だ。

3人の中で一番長身で体躯の良い彼は、一番無口で実直な印象を受ける。
そして、三銃士唯一の既婚者でもある。
だから、余計安心感を与えるらしく、社内での人気ぶりは衰えない。

彼は、あたしをちらりと横目に見て、怪訝な顔をした。

「こんな早くからうちに用事でも?」

それもそのはず。
出張などの多い営業部は早朝出社の社員もいるが、うちの部署では考えられない。
せいぜい課長が8時過ぎに出勤する程度だ。

あたしは顔を強張らせたままで言った。

「ちょっと、柿谷さんに用事が」

いつものように柔らかい笑みを浮かべる事は出来ない。
彼の方は別に気にした様子も無かった。

「あいつに?こんな早くに出勤するとは思えないけどな・・」

腕時計で時間を確認した杉本さんと並んで、営業部のフロアに入る。

予想通り、彼は自分の机でパソコンに向かっていた。

「タカ!どうしたんだ、お前。熱でもあるのか?」


心底驚いた顔で杉本さんが問いかける。
そんな彼の横をあたしは足早に駆け抜けた。
一目散に柿谷さんの元に向かう。

「いーや、至って平熱・・・なんだ、起きれたの?」

あたしを見つけた彼の開口一番のセリフがコレ。

なにが起きれたの、だ!!!!

怒鳴りたい気持ちをぐっと堪えて、あたしは彼の机に片手を突いて、すごんだ。

「ご丁寧にアラームまでどうも」

「いえいえ。こちらこそ、いいもん見せて貰って」

意味深な微笑みと共に、あたしの身体に視線を送る彼。
思わずあたしは後ずさる。

「その事で、お話があるんですけどっ」

それでも怯まず言い切れたのは、腹立たしさが勝っていたせいだ。

処女を奪った事に関しては、絶対に謝罪させようと心に誓っていた。
うちの社内には、彼となら一晩だけの関係でもいい、と本気で囁く女性社員もいる。
それ位人気の高い人物なのだ。

が、それとこれとは話が別。
あたしは、彼にこれっぽっちも憧れていないし、抱いて欲しいなんて思った事も無い。

酔ったのはこちらの不手際だとしても、それに乗じて、眠っているうちに行為に及ぶなんて言語道断だ。

鬼の形相で詰め寄るあたしを見つめて、あっけらかんと柿谷さんが言った。

「金のことならいーよ?」