「そういう可愛くない事言ってると、マジで噂流すけどー?」

ビール片手に流し目を向けられて、一瞬怯む。

顔のイイ男の流し目ほど恐ろしいものはない。

負けるな、あたし!

「そ、そうやって、あたしを脅してどうするつもり!?」

「酔わせてぺろっと頂くつもり」

「・・・っは!?」

何言った!?

思わず一時停止してしまった思考回路。

頂くって、つまり、それは・・・

「ほんとは、この前持って帰ろうと思ってたんだけどなー。
さすがに失恋直後はマズいかと思って」

事もなげに言って、柿谷さんがあたしの顔を見て笑う。

まるで品定めするような、嫌な目つき。

「その強気が、ベッドの中じゃどーなんのかなーと思って。
前の彼氏より、気持ちよくしてやるよ?」

「な、何言ってんのよ・・・」

言葉の意味は理解できるけど、理解できない。

そういう恋愛があってもイイとは思う。
でも、あたしにとっては別世界の出来事だ。
誰と寝たとか、誰とのエッチが良かった、とか。
理解できない。

「抱かれたら、どんな可愛い顔見せてくれんの?」

「し、知るわけないでしょ!」

「まー、そりゃそうか、自分で自分の顔なんて見れないもんなー。
鏡見てヤるってのもアリだけど、そんな余裕あるかなー?」

さらりととんでもない事を言った柿谷さんが、ビールグラスをテーブルに戻して、
あたしの方へ指を伸ばした。

思わず後ずさる。

恋愛未経験のあたしに、このハードルは半端なく高すぎる。

今更少女漫画のヒロインぶって、初めては好きな人じゃなきゃ!とか言い張るつもりもない。

そもそも、恋愛しようなんて思っていない。

もう誰も好きにならない。

だから、誰かに触れる事も、触れられることも、愛されることも、愛する事も。

抱かれることも、絶対に、無い、未来なんだ。

「俺と二人なのに、可愛い子ぶってどーすんの?」

苦い毒を含んだ甘い声音。

近づけばあっという間に毒に侵されて、かき乱される。

あたしは彼の指先を叩き落とした。