営業部のフロア入り口で、ウロウロする事10分。

外回りから戻ってきた彼を見つけた。

あたしは緊張で強張る頬をペシンと叩いて、いつも通りの笑顔を作る。

「南野さんっ」

意を決して彼の名前を呼んだ。

あたしの呼びかけに気づいた彼が、こちらを認めて柔らかく微笑む。

何度見てもやっぱり素敵な王子様だ。

穏やかで、ちょっと可愛い雰囲気の。

「仁科さん」

「あのっ・・ちょっとだけ、お時間いいですか?」

眩しい笑顔を直視できずにあたしは視線を下げる。

と、察しの良い彼はすぐに頷いて、非常階段を指さした。

エレベーター移動が殆どの為、完全非常時用となっている非常階段は、当然無人。

あたしは彼に向き直るとまずはお詫びを口にした。

「先日はご迷惑をおかけしてすみませんでした」

好かれる事は無くても、嫌われたくないというのが本音だ。

だってこんなに素敵な人なんだもん。

けれど、頭を下げたあたしの手を取って、南野さんはとんでもない!と言った。

「俺の方こそ、仁科さんのおかげで、彼女に気持ちを伝えることが出来たし。
きっと、あのまま燻ってたら、片思いで終わってたと思うから。
よいきっかけを貰ったっていうか・・・むしろ、ありがとう」

うーわー!!最強その笑顔!!
出来ればあたしが告白した時に見せて欲しかったわよそれ!!

満面の笑みでお礼を言われてしまえば、もう何も言えない。

「いえ・・・そんな、あの、お役に立ててっていうのも変ですけど良かったです。
・・・そ、それでっ」

あたしは手に持っていた紙袋のひとつを差し出した。

「こ、これはお詫びのつもりで持って来たんですけど、貰ってください」

「え!?そんなの貰えないって!!」

「いえ!ほんとに、でないとあたしの気が済まないんでっ」

尚も言い募ると、漸く彼が紙袋を受け取ってくれた。
その事にほっとする。
悩んで選んだクッキーの詰め合わせだ。
男の人でも食べやすい、チーズ味を選んだ。

「じゃあ、遠慮なく。気を遣わせて、こっちこそ申し訳ない」

「いいえ・・・あの、実はもう一つお願いがあって・・・」

あたしは手にしていたもう一つの大き目の紙袋を差し出した。

今日、どうしても彼に会いたかった理由は、こっちのほうだったのだ。