ラーメンが届いて、二口、三口と箸を進めた頃、柿谷さんが言った。

「仁科さんさぁ」

「はい」

「その話し方、素?」

「・・・そうですね。柿谷さんに、今更愛想振りまいても仕方ないですし」

きっぱり言い返す。
だって事実だし。

「うーわー。きみそーゆーキャラなわけ?」

「多かれ少なかれ、誰にでもオンとオフの差ってありません?
あたしは、可愛いって思われたいから、人の前だとそう見える様にしてるだけです」

「ちょーっと待った。俺も、人だけどなぁ」

あーもー面倒くさいなぁ。

あたしは舌打ちしたい衝動に駆られて、お箸を動かす手を止めた。

「駄目なところを見られた人の前で、今更点数稼ごうと思いません。
そんなの、無駄な努力ですから」

可愛い子は、最初から、可愛い。
可愛くない子は、頑張っても、そこそこにしかなれない。

あたしは百点満点の可愛い、が欲しかった。
だから、原点スタートの彼の前でいい恰好はしない。

「俺の前で、可愛く無くてもいいんだ?」

面白そうな顔で柿谷さんが言った。。

「柿谷さん位かっこよかったら、他にいくらでも可愛いく見られたい女子が集まるでしょう?」

あたしに用は無い筈だ、と暗に示す。

彼はにやっと人の悪い笑みを浮かべた。

少し硬めのダークブラウンのくせ毛が揺れる。
通った鼻筋と、綺麗な二重の瞳。
最近話題のアイドルグループにいても可笑しくない程に整った顔。

しかも話し上手で、女性を手玉に取るのが上手い。
火遊びは数知れず、数年前には社内の二大美女が彼を取り合いして大喧嘩をしたという
嘘かほんとか分からないような武勇伝まで。

実際こうして近づいてみるまで分からなかった。

あたしの世界にはつい先日まで南野さんしかいなかったのだ。

が、イケメン三銃士と呼ばれる所以は分かるような気がした。
女性の扱いに慣れているという点も、さっきの対応でわかる。

カクテルのチョイスにドキンとしたのは内緒だ。

「ほんっと、きみみたいな子、初めてだなー。
みーんな、俺に可愛いって言われたくて近づいて来るのに。
社内で人気の仁科さんも、俺の優しさにコロッと落ちるかと思ったのになぁ」

遊び上手な彼の事だ、きっと、側に近づいてきた可憐な花にふさわしい言葉を贈るんだろう。

誰もが夢見るような甘い一言を。

「ご期待に添えずにすみませんね」

再びラーメンを食べる作業に戻る事にする。
そんなあたしに、彼が静かに言った。

「篤樹は良い奴だけど、男はあいつだけじゃないよ」

「そんなの知ってます。あたしが用があったのは彼だけだったんです」

柿谷さんが、ラーメンを頬張るあたしを見て、しみじみ言った。

「きみってさー。可愛げないなー」