「佐倉さん?」 彼が呼んでいるのは私の名だと分かる。 それは分かるけど、止まりかけの脳みそでは返事すらろくに返せない。 「あの、これ。この間はありがとう。助かったよ」 そう言って差し出されたのは彼が持つには余りにも違和感の強いお花柄の折りたたみ傘。 それは間違いなく私が昨日押し付けたものだった。 「雨、かなり降ってたし返そうかと思ったんだけど佐倉さんすぐ消えちゃったし。 お陰で僕は濡れずに帰れたけど……。佐倉さんは大丈夫だった?」